夢想曲ートロイメライー


「しっかりして!私の声が聞こえる?」

そう声をかけて近くに倒れていた男の子を抱き起こす。

男の子はぐったりとしていてぴくりとも動かない。

頭に材木が当たった様で、そこから血がどんどん出てくる。

他にも何ヶ所か傷がある。

持っていた手ぬぐいを細く破り、巻きつけて縛る。

応急処置だけど、今はこれしかできない。

お医者様のところまで連れて行ければ、もっときちんとした治療ができる。

「大丈夫だからね」

励ます様に声をかけて次の子に移る。

「い、痛いよ……」

この子は意識があるみたいだけど、腕が血まみれだった。

止血をしなければいけないけど、手ぬぐいはもうない。

「誰か、手ぬぐいを貸して下さい!!」

私は辺りを見回すが、皆何故か顔を見合わせるばかりで、誰も貸そうとしない。

……どうして!?

その時、何かを裂く音がした。

「これを使え」

一度だけ聞いたことのある、凛とした声。

振り向くとそこにいたのはあの大柄な青年。

細く裂いた手ぬぐいをこちらに差し出していた。

「……久坂さん」