リビングに戻ると、テーブルの上には淹れたてのコーヒーと、クロワッサン、ヨーグルトが並んでいた。
「ごめんね、こんなのしかなくて」
「全然、十分豪華だよ。いただきます」
手を合わせてから、ヨーグルトをひと口。実はあまり食欲がなかったのだけれど、さっぱりとしていてとても口当たりがいい。
「……あ、これ美味しいじゃん」
「でしょ。軽井沢の限定ヨーグルトだよ。旅行中に食べてからハマって、お取り寄せしてるんだ」
「へえ、さすが仕事で食品を扱ってるだけのことはあるね」
紘子は輸入食材を扱う部署にいる。海外出張が多いのは現地の農場の視察や、買い付けが主だと聞いたことがある。傍から見れば、とても楽しそうな仕事に思える。
「まあね、アンテナは張ってないとダメなのよ。それはそれで結構つらい」
「なるほどね」
「それで、何時に出る?」
「八時に出れば大丈夫」
ここから新宿までは、三十分あれば足りる。
「紘子は?」
「あたしも一緒に出よう。今日は会議があるしね」
紘子の会社はここから歩いて十分。満員電車に揺られないで済むのはとても羨ましい。


