それはとても懐かしい痛みのように感じた。思い出すのは幼いころ頃大好きだった絵本。小さな胸を震わせて、何度もめくったページ。そこに登場する王子様に私は恋をしていた。おそらくその時と同じ胸の疼き。
「でも、游さんは王子様じゃないんだけどね」
ぽつり呟いた。フライパンの油がパチンとはねる。私は慌てて火を止めて、少し焼き過ぎてしまったハンバーグをお皿にそっと乗せた。
「お、できた?」
その時丁度、手を洗ってお風呂場からでてきた游さんは、私の手からお皿をひょいと奪う。
「これと、あとどれをテーブルに並べたらいい?」
「えーと、お箸とそこのたれを持って行ってください」
豆腐ハンバーグに合わせて、大根おろしとポン酢の特製だれを作った。その残りの大根でお味噌汁と、サラダにした。
「今日は大根のフルコースなんだね」
作っている時はあまり感じなかったけれど、全てをテーブルに並べると、確かにそうだ。
「はい、特売だったので。すみません」
「いいよ。こういうのもなんか、面白い。由衣子ちゃんってこういう所、しっかりしてるよね〜若いのに」
游さんは感心したように言う。
「若くはありませんよ」
「僕から見たら若いよ。じゃあ、いただきます」
游さんは味噌汁に手をつける。
「うん、美味しい! すごく出汁が聞いてる」
「あ、分かります? その出汁はちゃんと煮干しで取りました」
うちの母は、手間暇かけて料理をする人だった。それをずっと食べてきたので、インスタントの顆粒出汁はなんとなく口に合わない。
「なるほど、由衣子ちゃんはちゃんと料理する人なんだ」
「意外でした?」
「いや、そうでもない」
それから游さんは、私の料理をどれも美味しいと言って食べてくれた。


