《それで、游さんとエッチしたの?》
電話の向こうにいる紘子は、興味津々と言った感じで聞いてくる。
現在午前十時。バイトに出掛けた游さんを見送って、私はまだアパートにいた。
それは游さんが、『夕方には帰ってくるから』と言い残して出掛けて行ったからで、私も私で『夕ご飯作っておきますね』なんて言葉が継いで出てしまったことに端を発する。
暫くは、自分の発言に酷く後悔したのだが、ひと晩泊めてもらったお礼をしなければと思っていたので、丁度いいと思うことにした。
「エッチはしてない」
《は? お持ち帰りされてしてないってどういうことよ!》
紘子の大声に、耳がキンとなる。
「あのね紘子、いくら私がさびしい女だからって誰でもいいってわけじゃないんだよ。申し訳ないけど、游さんはナイかな」
《ああ、彼フリーターっていってたっけね。彼じゃ、あいつらを見返せないもんね! じゃあ、ダメね》
そんな理由で恋人を選ぶのはおかしいけど、隆を見返せるような男を見つけるという目的がある以上、游さんでは駄目なのだ。
「まあ、そうだね」
《由衣子には申し訳ないけど、その点慎一郎さんは合格だわ。弁護士の収入ってって、ピンきりらしいんだけど、慎一郎さんはいいんだって》
「そう、すごいんだね」
紘子の自慢話に、私は適当な相槌を打つ。
《あ、それでね、由衣子。慎一郎さん最近東京での仕事が多いから出来たらあたしのマンションに住みたいらしいの》
「ふーん……って、住むの⁉ 慎一郎さんが? じゃあ、私は?」
嫌な予感がする。


