「由衣子ちゃん、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。これ、食べてもいいですか?」
「別にいいけど、こんな時間だし明日にすれば?」
游さんは部屋の明かりをつけながら言う。
「ううん、今食べたいんです」
「じゃあ、お茶でも入れようか」
游さんが注いでくれた麦茶を飲み干すと、私はプラスチックのフォークでケーキの三角の部分を小さく切り分けると口にいれた。
「……おいしい」
游さんは私の座るソファーの近くに腰を下ろすと、ホッとしたようにほほ笑む。
「本当? よかった。由衣子ちゃん、舌が肥えてそうだから喜んでもらえないんじゃないかって思ってドキドキしてた」
「そんなことないです。私全然グルメじゃないですよ……って言ったら説得力ないですけど、このケーキ本当においしいです。游さんも食べてください」
私はさっきより大きく切り分けたケーキを游さんの目の前に差し出す。
「僕は、いいよ」
「どうして?」
「夜中に甘いもの食べたら、太るし」
言いながらお腹をさすった。
「男性でもそういうことって気になります?」
「うん。男も三十路を過ぎると、お腹がね」
そういいながら笑う游さんは、どう見ても痩せているじゃないか。
「本当ですか~どれどれ」
私はふざけて游さんのお腹をつつくフリをする。
「ダメ、僕お腹弱いんだよ」
身を捩って逃げる游さんがかわいい。
「そう言われると、くすぐりたくなるんですよね」
床に座っている游さんに無理やり手を伸ばす。すると不意にバランスを崩した私はソファーから落ちて彼に覆いかぶさってしまった。


