「ここだよ」
家と家の間を通る細い道を少し歩き、突き当りで足を止めた。游さんのアパートの外観は昭和の匂いがする木造の二階建て。
「すごく年季が入ったアパートでしょ」
游さんは小声で言った。
「あ、はい。すごくアンティーク」
私はできる限り言葉を選んで答える。
「アンティークとはいい表現だな。まあ、古いってことだよね。女の子はどう思うか分からないけど、寝に帰るだけだし、僕はあまり気にならない。しかもここ、職場と駅が近いから便利なんだよ」
私も、あまり住まいにはこだわりがない方。ただ、汚いのだけは勘弁して欲しい。
一階の端の部屋が游さんの部屋らしかった。結構高価な自転車が玄関前に置いてある。
游さんは鍵を取り出して、部屋のドアを開けると、「どうぞ」と私を先に入れてくれた。
「おじゃまします」
おずおずと中に入る。確かに古めかしい内装だが、部屋の中はとても綺麗に整えられていた。
「なんていうか、シンプルな部屋ですね」
八畳程の部屋にはソファーとテーブル、机とベッド。あとは、押入れを改装した様なクローゼットがあるだけだ。
「もともと部屋にはあまり物を置かない主義なんだよね。わりと実家が近いから、衣類とか、本とかは自分の部屋に置いてある」
游さんの話を聞いていると、ここは、本当に寝に帰るだけの部屋なのだと思った。実家が近いのならなおさらだ。きっとご飯なんかは実家で食べさせてもらってるんだろう。
勝手な想像だけど、意外と当たっている気がする。


