「ごめん、泣かせて。僕があんなこと言わなければよかったんだよね」
掴んでいた私の腕を離し、游さんは申し訳なさそうな声で言う。
「さっきはああ言ったけど、本当は游さんのせいじゃありません」
引き金を引いたのは、游さんだけど、勝手に泣いたのは私。
「……なんていうか、最近上手くいかないことが多くて。酔ったらなんだか、感情のコントロールができなくなっちゃったみたいです。ただ、それだけ」
私はそれらしいことを言ってごまかした。
「そっか」
游さんはそれ以上何も聞かず、「はい」と私にハンカチを差し出した。
「いちおうきれいに洗ってあるからよかったら使って」
綺麗にアイロンがかけられたそれを受け取ると、私は涙で濡れた頬にそっと押し当てる。すると、柔軟剤がふわりと香った。
「少し落ち着いたら帰ろうか。送ってくよ。……っていってもタクシーでだけど」
「ありがとうございます、でも……」
私が言葉を濁すと游さんは「ああ」とひとり納得したように頷く。
「送られるのは抵抗あるよね」
「いえ、そういう訳じゃなくて、実は私、帰る家がないんです」
「は?」
素っ頓狂な声を出されて、言葉足らずだったと反省する。
「あ、いえ、変な言い方しちゃってごめんなさい。なんていうか。私今、紘子の家に居候させてもらってるんですけど、今日は別の所に泊って欲しいって言われてちゃったんです」
「なるほどね。紘子ちゃん、慎一郎といい感じだったもんな。つまり、そういうことでしょ?」
「ええ、まあ。それで、泊まる所を探さないといけないんですけど、どこがいいですかね? 満喫、カラオケ、カプセルホテル。他にいいところありますか?」
「あるよ。僕のアパート」
「へ?」
今度は私が驚きの声を上げる番だ。
「満喫も、カラオケも、カプセルホテルも、どれも、酔った女の子がひとりで一夜を明かすようなところじゃないよね」
「……でも」
初対面の男の人のアパートの方が、酔った女が一夜御明かす場所じゃなくない?


