「すみません、モヒートふたつ!」
私はおもむろに立ち上がるとカクテルを注文した。
逃げよう、酒に。
游さんからも、いやなことからも。
チラリと紘子に目をやれば、慎一郎さんとイチャイチャしている。
今夜はお持ち帰り決定かも。やっぱり、彼氏に浮気され、左遷された可哀想な親友の私よりも目の前の恋が大切だよね。私、今日はどこに泊ればいいんだろう。
「お待たせしました。こちら、モヒートです」
「あ、どうも」
私はテーブルに置かれたグラスを握ると一気に煽る。すると游さんはすかさず注意してくる。
「由衣子ちゃん、駄目だよ。こういう飲み方はよくない」
飲みの席で説教するなんてどんだけ真面目君だよ、お前は!
「別に平気です! 私のことなんて、放っておいてください」
「そういうわけにはいかないよ。知り合ったばかりとはいえ、僕には君を止める責任はあると思うよ。急性アルコール中毒になる可能性だってあるんだし」
急性アル中って……そうゆうこと言われると、気持ちよく酔えないじゃない。
私はムッとして言い返す。
「うるさいな~、酔いたいんだから、酔わせてよ。あなたは私のことなんて、なーんにも知らないんだから、止める権利なんてありません」
「たしかに君のことは何も知らない。でも、ずっと泣きそうな顔してるから、なにか悩んでることがあるんだろうなってことは分かるよ」
「……な、んで」
図星をつかれて、否定できない。
游さんは「あたりだね」といいながら私からグラスを奪いモヒートに口を付けた。


