それから私たちは、雑居ビルにある小さなバーに移動した。いわゆる隠れ家的なその店は、芸能人もよく来るらしい。
カウンターには男性客が二人。私たちはソファー席に座り、ビールで乾杯した。
「游さん、楽しめてます?」
私は思わず言聞いてしまった。
積極的に女の子と話をするわけでもなく、お酒を楽しむわけでもない。しらふでこの場にいるのは苦痛な気がしたから。
「今でしたら、いなくなっても誰も気付かないと思うので、帰ったらどうですか?」
「どうして? 十分楽しんでるよ。賑やかなのは嫌いじゃないんだ。それにこいつらと飲むのも久しぶりだし」
游さんは飲んでいたウーロン茶のグラスをテーブルに置くと、私の方を向いた。
「由衣子ちゃん、でいいんだよね」
「あ、はい。そうです」
「気にしてくれて、ありがとう」
「……いえ」
やばい、と思った。ちょいちょい話しかけていたから、気を持たせてしまったのかも知れない。
彼のことは、とてもいい人だとは思うし、顔も好みではある。おそらく、いい友達にならなれそうだ。しかし、私が今欲しいのは彼氏だ。男友達は要らない。
そして、上から目線で大変申しわけないけれど、新しい彼氏は隆よりもお金持ちじゃなきゃだめだ。何度も言ってしまうが、ここ、すごく重要ポイント。


