それからまもなく、ドリンクがラストオーダーの時間になり、テーブルにはデザートが並んだ。フルーツが添えられたジェラートを食べながらみんなは二次会はどの店にしようかと盛り上がっている。
游さんは時々携帯電話を見つめては小さなため息を吐く。そんな彼が気になって、聞いてしまった。
「どうしたんですか? さっきから携帯ばっかり見てますね」
「……あ、すみません。もしなにかあったら、連絡が来ることになっているので……でも、多分大丈夫なんだと思います」
「游さんは真面目なんですね。それとも心配性なだけ?」
「さあ、どうでしょう。多分後者だと思いますけどね」
そう言って笑う游さんの飾り気のない素朴な笑顔は、ささくれだった私の心を優しく包んでくれる。今の私が求めているのは、こんな男性だ。でも、彼はない。だって、游さんじゃ隆を見返せない。
「そろそろ二次会行きますか!」
仁さんの一声でみんなが席を立つ。会計は男性が持ってくれることになった。
「ひとり二万円ね」
女性陣には聞こえないような声でそう言っているのを私は聞いてしまった。
おもむろに財布を出す游さんに、私はこっそりと一万円を差し出す。
「なんですか、これ」
游さんは少し驚いたような顔をして聞いた。
「私の分です」
アルバイト生活の二万円は、痛い出費だろう。男性としてのプライドとか、立場とかそういうものは抜きにして、受け取って欲しかった。けれど、游さんは私の手をそっと押し返す。
「気持ちだけ、いただきます」
「でも」
「それ、しまってください」
そこまでいうならと、しぶしぶ出したお札を財布にしまった。


