冷めて固くなったマルゲリータをひと口食べて、小さなため息を吐く。
「……もう、帰ろうかな」
誰にも聞こえないような声で呟いたその時だった。五人目の男性が店員に案内されて姿を現した。走ってきたのだろうか、息が上がっている。
「遅いぞ、游」
そう言いながらテーブルに着く。恰好はお世辞にもお洒落とはいいがたい少しよれたシャツとデニム。靴はスリッポンサンダル。
「ごめん、仁。バイト上れなくて」
「おまえさ、忙しいのは分かるけど、少しは服装に気を使えよ。女の子たちに失礼だろう」
仁さんはため息交じりに言った。すると、游と呼ばれたその人は、「すみません」といいながら頭を下げる。
ずいぶん手入れしていなそうな伸び放題の髪には、帽子をかぶった後のような跡が付いている。
「あの、游さん?でしたっけ。さっきバイトって言ってました?」
穂乃果さんが確かめるように聞いた。
「はい、そうです。今日はバイトの日で、本当はもっと早く上がれ手はずだったんですけど、トラブってしまって……、みなさんをお待たせしてしまって、すみませんでした」
「いいえ、ぜんぜん待ってませんから。大丈夫です」
穂乃果さんのあからさまな拒絶は、ガラガラとシャッターを下ろす音が聞えてくるようだった。ほかのみんなも游さんには興味がないのだろう、目も合わせようとしない。


