いつか白馬に乗った王子様が、ガラスの靴を持って私を迎えにきてくれる。

共働きの両親に育てられ、いつもひとりで絵本の世界に入り浸っていた私にとって、そう想像することは、とても自然なことだった。

「ねえ、ママ。シンデレラみたいなおリボンのお洋服、買ってよ〜」

お姫様のドレスに憧れて、誕生日の度にねだった。
しかし、そんな高価なものを娘に買い与えるような余裕はない暮らしぶり。ゴミ袋にマジックで色を塗り、ドレスを自作すれば、勿体ないことをするなと母親に叱られた。

 やがて小学生になると、絵本に出てくるような王子様なんて、どこにもいないのだと知った。

「あれは、ただのおとぎ話」

同じクラスのヒロちゃんは、そう言って笑った。

幼い頃の夢は脆くも崩れ去り、小学校の卒業文集には、〝将来の夢・玉の輿〟と書いた。
高校の進路調査票にもそう書いて、三者面談で親にチクられた。

「あの、ブタタヌキめ~。ママにばらすなんて信じらんない。冗談に決まってるじゃんか!」

「てか由衣子って、バカ? 進路調査票に冗談なんて書くなよ」

「うるさい、紘子。あー、玉の輿に乗りたい!」

「あたしもー!」

立ち入り禁止の屋上で、腐れ縁の紘子と夕日に向かって叫ぶ私、天野由衣子は玉の輿を夢見るお馬鹿な女だった。