一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~


永峯理事長に促される様にして家の中に入る。玄関には生け花が飾られていた。長い廊下が左右に走り、お屋敷の広さを伺わせる。

「游、応接室へお連れしなさい」

「はい」

「父さんは?」

「すぐ戻るよ」

「わかった。由衣子ちゃん、こっち」

游さんは玄関からすぐにある部屋に私を連れて行ってくれた。中は応接セットが置いてある洋室だった。

「どうぞ、ここに座って」

「はい」

 私はソファーの端に座った。緊張で汗ばんだ手をギュツと握り締める。すると隣に座った游さんは私の顔を覗き込む。

「緊張してるの? 大丈夫だよ。父さんが電話に出なかったのも理由があったみたいだし」

「そうですね。それはよかったと思いますけど、 結婚のご挨拶なんて初めての経験で、緊張するなと言う方が無理ですよ」

「そりゃそうだ。じゃあ、緊張が解けるおなじまい」

 手のひらに三回人と書いて飲む――とか言うのかと思った私に、游さんは優しくキスをした。私は握っていた手のひらを広げて游さんの背中に回す。緊張で強張った体が不思議と緩む。もう少しこうしていたい。けれど、いきなり襖が開き私たちはとっさに体を離した。

「またせたね。今日はお手伝いさんを早めに帰してしまったから誰もいなくてね。コーヒーを淹れるのに時間が掛かってしまったよ」

 永峯理事長はそういいいながら手にしたお盆の上にカップをテーブルの上に置いていく。

「そう言うことでしたら私がさせていただいたのに。すみません、気が回りませんでした」

私は慌てて頭を下げる。でも永峯理事長は首を横に振った。

「いや、いいんだよ。気にしないで。さあ、どうぞ。コーヒーだけど、カフェインレスだ」

「……カフェインレス? あ、ありがとうございます」

「私の勘違いなら申し訳ないが、天野さん妊娠しているね」

突然言い当てられて私は驚きを隠せない。



「どうしてわかるんですか?」

「以前より顔つきがとても優しくなったし、お腹を庇う様にして歩く姿を見たからそうじゃないかと思ってね」

 さすがお医者様だ。変化を見逃さない鋭い観察力を持っている。永峯理事長は何か言いたげに游さんをチラリと見た。すると游さんはおもむろにソファーから立ち上がった。