突然のプロポーズに私の目にはまた涙が浮かんだ。淀んで荒んでた心がじんわりと温かくなる。
私は游さんの目を見つめて答える。
「はい、私も游さんと結婚したいです」
「よかった。ありがとう。じゃあ、その気持ちが変わらないうちに指輪でも買いに行こうか」
「え、今から?」
「そう。そういうわけだから結花は家に帰りなさい」
游さんは結花さんに片方のピアスを渡すと、タクシーに押し込んだ。
「ちょっと、游くん!」
「じゃあまたね、結花。運転手さん、車出してください」
バタンと後部座席のドアがしまり結花さんを乗せたタクシーは静かに走り出す。
「由衣子ちゃん、行こうか」
そういった游さんはおもむろに私を抱き上げる。
「あの」
「ちょっと急ぐから、しっかりつかまってて」
游さんは私を抱いたまま、夜の街を走る。通りすがりの人たちが、何事かと視線を投げかける。私は嬉しさよりも恥ずかしさが勝って、游さんの胸に顔を埋めた。
「ついたよ」
顔をあげると有名なジュエリーブランドの店の前。
「游さん、私歩けますんで下ろしてもらってもいいですか?」
「ああ、うん。そうだね」
游さんは苦笑いしながら私を床に降ろした。
「足、本当に大丈夫?」
「平気です。心配してくださって、ありがとうございます」
閉店時間ギリギリに滑り込んだ私達を黒のスーツを着た店員さんはにこやかに迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しですか?」
「婚約指輪を探しに来ました」
まだ、プロポーズを受けた実感すらないのに。さらりと言ってのける游さんに、私は密かに頬を染めた。
「おめでとうございます。それでしたらあちらにご用意がございます」
店員さんに促されて別のショーケースに前に移動すと私は思わず声を上げた。
「わー、綺麗!」
キラキラと輝くリング。それぞれがペアで並べられていることに、その指輪の持つ意味を改めて感じる。
「お気に召したものを言ってくだれば、お出しいたします」
「……でも」
見るとどれも手に取ることさえ躊躇してしまう値段だ。


