ショックを受けた私は、握っていたグラスを手放してしまった。派手な音を立てて、床に落ちたグラスは粉々に砕ける。
「大丈夫、天野! やだ、足、ガラスで切れたんじゃない?」
割れたグラスで切れたのだろうか、私の足には赤い血が滲んでいる。そんなことよりも、私はこの場からすぐに立ち去りたかった。
「ごめんなさい、菱沼さん。私、帰ってもいいですか?」
菱沼さんの返事も聞かないまま、私はバックを持って立ち上がりそのまま店を飛び出した。
人通りの多い通りをしばらくひた走ると、閉店してシャッターの下りた百貨店の前で立ち止まった。
「……いったー」
しゃがみこんで足元を見る。怪我をしたところは、もう血液は流れ出ていなかったが、びりびりとした痛みがある。私はハンカチをあてて固まりかけた血を拭った。
パンプスは黒かったので汚れは目立たなそうだが、ストッキングは破けて伝線してしまっている。傷だけでも保護しなければとバックを漁って絆創膏を探したが、なかった。
「これ、使って」
不意に差し出された絆創膏。見上げると、私を心配そうに覗き込む游さんがいた。


