翌日。出社して自分のデスクに座るとすぐに、隆がやって来た。とても険しい顔をして。
「由衣子、ちょっと話がある」
「……え、なに?」
「ここじゃなんだから、ついてきて」
人目をはばかる様に、隆について誰もいない会議室に入る。隆は内カギをかけ、私を壁際に追い詰める。そして、大きなため息とともにこういった。
「まどかをイジメるのはやめてくれないか」
「三上さんを、イジメる? 私が? いつ?」
身に覚えのないことを言われて、頭にクエスチョンマークがポンポンと浮かぶ。
「とぼけるなよ! 昨日、まどかのことを呼び出して、酷いことを言ったらしいな」
「酷いことなんて言ってないよ」
むしろ、酷いことを言ったのは彼女の方だ。
「嘘を吐くなよ! ほんと、別れて正解だな。こんな嘘つきの性格ブスと付き合ってたなんて、俺も女を見る目がなかったんだと反省するよ」
汚いものでも見るように、隆は私を見下ろしている。私は返す言葉を失っていた。否定することすらできない。数分の沈黙の後、隆はスッと右手を出した。
「な、なに?」
「マンションカギを返してくれないかな? もともと俺の名義だったろ。これからはまどかと住むんだ。お前の荷物はまとめて送ってやるから、送ってほしいもののリストと住所教えて」
「……分かった。今は持ってないから、オフイスに戻ったらわ渡す」
オフィスに戻った私は、カバンからキーケースを取り出すと、そこから外して封筒に入れた。ワードを立ち上げて、荷物のリストを作る。そこにはクローゼットの中全部と靴。とだけ打ち込んで、残りの空白に紘子のマンションの住所を書いた。
「次長、こちらお願いいたします」
隆のデスクの前まで行き、封筒を手渡す。
これで全てが終わってしまうのかと思うと、とても悲しかった。
デスクに戻り、ふと顔を上げるとまどかが私を見て笑っていた。私は直ぐにパソコンの画面に集中し、無心で仕事をこなした。


