数分後。女の子はぐったりとはしていたけれど、どうやら助かったようだ。
心配し見守っていた店内の客の顔には安堵の表情が浮かんだ。
そんな中、救急車のサイレンが聞こえてくる。店側の誰かが通報したようだ。
ストレッチャーを押して店内に入ってくる救急隊員に游さんは丁寧に事情を説明している。
やがて、女の子はストレッチャーに乗せられた。
どうやら救急車で病院に向かうことが決まったようだ。
これで游さんも解放される。そう思ったのに、女の子は游さんに一緒についてきてほしいと言って譲らない。
「ごめん、由衣子ちゃん。あの子、僕が同乗しないとまた発作起こすと思うんだ」
「私にかまわず行ってあげてください」
そう言うしかなかった。本当は游さんとのデートを邪魔されたくない気持ちの方が大きかったけれど、医者である游さんは患者さんのものだ。
「マンションへはタクシーで帰ってくれる? 実家へはまた今度」
「はい、分かりました。部屋で待ってます」
「うん、じゃあまた」
游さんは私の手を握った後、救急車に乗り込む。バタンとハッチバックドアが閉められると、救急車はサイレンを鳴らして走り出した。
それから私はひとりでタクシーに乗って、游さんのマンションへ戻った。


