「永峯様。本日はご来店ありがとうございます」
「どうも」
「お父様はお元気でらっしゃいますか?」
「ええ、おかげさまで元気にしています」
「こちら、当ホテルからご用意させていただきました」
すると後ろに控えていたウエイターシャンパンを注いでくれる。游さんとホテルの人とのやり取りに、周りの人の視線が集まる。
私はどうしていいのか分からずに、ただ黙ってその場にいることしかできない。
「すごいですね。よく、くるんですか?」
ホテルの人が去ってから私は游さんに聞いた。
「うん、まあね。記念日とか、お祝い事があるときはここを使うことが多いんだよね」
「ほんとすごいです。私は社会人になってようやくこういう所にこれるようになって、って言っても、仕事の関係でとかですけどね。だから、すごく憧れちゃいます」
「まあ、いってしまえばすべて父親の繋がりで、僕自身はなんの力もないんだよ。だから、あまりすごいを連発されると少し困る」
「あ、ごめんなさい」
「ううん、僕の方こそキツイ言い方になってごめん。まずは乾杯」
私は華奢なシャンパングラスと手に取り、游さんのグラスに重ねる。
「美味しい」
「うん、美味しいね」
細かな泡が弾ける爽やかなシャンパンを楽しみながらコースのメニューを選んだ。


