帰る場所はあのアパートだと思っていた。けれど、游さんは車をタワーマンションの地下駐車場で止めた。
「着いたよ」
「着いたって、ここは?」
困惑する私に、游さんは苦笑いを浮かべる。
「……ああ、そうだよね。混乱させてごめん。ここも僕のマンションなんだ。たくさん話さないといけないことがあるね。でも取りあえず降りて、部屋に行こう」
游さんに促され、私は車を降りた。エレベーターに乗り込むと、游さんは三十八階のボタンを押した。
重厚な玄関のドアを開けると、シューズクロークのある広い玄関。
そこから伸びる長い廊下の先には夜景が一望できるリビング。夕闇に溶けることなく輝きを増すビルの明かりが贅沢な空間を作り上げている。
「綺麗な夜景~。こんな部屋があるのに、どうして古い木造アパートに住んでたんですか?」
「ああ、あれはただ、通勤に便利だから住んでたんだ。でもあのアパート、取り壊されることになったんだよ」
だからもう住んでいないと游さんは言った。
「そうなんですか。なんだかさびしいですね」
「さびしい?」
「はい。だって、あのアパートには游さんとの思い出があるから」
二月足らずだったけど、色々なことがあった。そのすべてが游さんへの想いを形作ってくれた大切な出来事。


