一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~


 行きたくない場所へと向かう電車はどうしてこんなに早いのだろう。

渋谷で降りると山手線に乗り換え新宿まで向かう。

人の波にのまれながら、会社の入っているビルに到着すると一階にあるコーヒーショップでカフェラテをテイクアウトする。

フタバメディカルの本社は新宿の巨大なオフィスビルの中にある。中にはクリニックや、コンビニ飲食店なども入っていて、ひとつの街のようだと思う。

エレベーターは数機あり、目的の階によって乗るものが違う。私は十五階以上に止まるエレベーターに乗り込んで、オフィスのある十七階で降りた。

デスク周りを掃除してパソコンの電源を入れる。隆とまどかはまだ出勤してきていない。顔を合わせたら、挨拶くらいはちゃんとしないととか、その時はどんな顔をすればいいのかだとか、起動するまでの数十秒そんなことばかりを考えていた。

「おはよう、天野。朝からなに辛気臭い顔してんの」

 ポンと肩を叩かれて、顔を上げた。

「ああ、菱沼さん。おはようございます」

 菱沼さんは私の二つ上の先輩で、営業をしている。
成績もよくて、気が利いて、明るい。おまけに顔も美人だ。私は彼女のサポートをしながら営業事務の仕事を教えてもらった。いわば私の師匠でもある。