「慶喜様がいない!?」


隣の部屋から、土方さんの声がした


すでに、大阪からも撤退しているとのこと


これって、逃亡!?


「京では、まだ戦っている奴がいるのに
大将が… 嘘だろ」

「永倉!幕府の船に乗せて貰えるよう
頼みに行くぞ!!」

「おう!」



スーーー



「総司 近藤さんと山崎は、任せた」

「はい」



任せたって……

僕、寝てるだけなのに


でも、土方さんから頼られていると
嬉しい気持ち

そして、本来なら、僕が土方さんと
行くはずだったのだと

さみしい気持ち


ぎゅっと烝の手を握る



「烝… 会いたかった
会いたかったんだよ
元気に笑う烝に戻ってよ
話したいことが、いっぱいあるよ
桜を見る約束だって、まだ……」




一方的に語りかけた



そうすれば、パチッと目が開いて

煩いとか、文句の一つも言いそうだから






「火事だーーー!!!!!」




外が騒がしくて、僕は体を起こした



「総司…火事だそうだ
外に逃げよう」


近藤さんが迎えに来た


「はい!」


僕は、烝を抱き上げた

弱った僕にも、軽々と抱えられる

細く小さなからだ


「近藤さん!!」

「斎藤君!!よかった!!近藤さんを
お願いします!!!」


斎藤君は、隊士らを逃がしてこちらに

来てくれた



皆で港へ向かった



そして、そのまま船に乗り込んだ





烝を横にして、手を握る


「僕がいるからね!
もう、大丈夫だからね!」


苦しそうに顔を歪めていた

烝の最期には

僕が手を握って見送ると約束した


僕は、烝より長く生きる