「あ、だめですよ」

「ただの寝不足だっつの。寝てすっきりしたし部活行かねーと」

「峰ちゃん先輩が出れないならサボれるってクラスの奴らが言ってました」

「それを俺に正直に言うのはお前の悪いとこだと思うぞ」

「あ、ていうか先輩を運んだ問題が解決してません。男だったんですか、女だったんですか」

「普通男だろ」

「だったら尚更私が先輩を運ぶべきだった……!」

「なんだよその基準」


少し笑った先輩の腕を掴んでいた。


こんなとこでめったに見せない笑顔を出すなんて罪な人だ。


「樫野? どした」

「私、先輩のこと大好きです」

「は?」

「他の女の子に取られるとは思ってないですけど、やっぱり好きです」

「その自信はどっから来るんだ」

「だって、人に触られることを嫌がる先輩が私を振り払わないんですもん」


にっこりと笑ってみせると、顔をそむけた先輩が「んー……」と頭をかいた。


「いや、別にお前のことぶん殴ったりしてるから慣れてるだけで…………樫野、一ついいか」

「はい」

「お前の好きはどういう好きだ」

「恋愛感情ですよ。先輩のこと、ずっと男として見てます」

「…………まじかよ」


完全に予想外という顔で困ったように口をつぐむ姿がなんとも愛らしい。


「まあ、一応お前も女だもんな……」


やがて峰ちゃん先輩が呟く。


「まあ、俺に彼女できてもお前に取られるからな」

「失礼な。人の彼女口説いたりしませんよ」

「いや、絶対お前に惚れるからやだ。だったら、お前と付き合っちゃった方が話は早いのか……?」

「そうですね。ギブアンドテイクですね」

「それはどうだかな」

「それでは手始めに音楽室まで運んであげますよ」

「いらねえよ。またお姫様抱っこだろ」

「不満なら肩に担いであげますが」

「雑だな」

「もしくは王子様のように馬になります」

「お前おんぶする気だろ」

「そうすればいつもより高いところからいろんなものが見えますよ」

「嫌がらせか!」


そして、顔に枕を投げつけられた。


そんなわけで私達は付き合い始めたのだった。