「峰先輩って……あの怖そうな人?」


恵ちゃんの親友である麻紀ちゃんが、恵ちゃんの後ろでぼそぼそと聞いてきた。


私は麻紀ちゃんに近づく。


「あれ、いい匂いがするね。シャンプー変えた?」

「え、いや……何もしてないけど」

「とても魅力的な香りだね。女神が現れたのかと思ったよ」


麻紀ちゃんの髪を一筋取ってみると「え、あ、えと……」と麻紀ちゃんは顔を真っ赤にしてうろたえた。


「樫野くん、わたしの親友を口説かないでちょうだい」


髪を触る手をぺしんと叩かれた。


「あはは、ごめんごめん。麻紀ちゃん彼氏いるんだったね」

「い、いや、そういうんじゃ……」

「照れてるー麻紀ちゃん可愛いー」


真っ赤になって俯く麻紀ちゃんの頭をよしよしと撫でる。


「それはそうと、樫野くんは峰先輩のことは好きなの?」

「うん、好きだよ」

「まあ、樫野くんって基本人嫌う人じゃないしね」

「暴力的なのと小さいのは置いといて、普通にかっこいいしトランペットうまいし、そりゃ惚れるよね」

「そうよね、男前な男子ってわたし達から見てもかっこいいし…………ん?」

「ん?」


恵ちゃんと二人して顔を見合わせて首を傾げる。


「えと……樫野くんの言う惚れるってのは、なんていうかこう、憧れというかそういう……」

「えー、普通に男として好きだよー」

「そ、それは、恋愛感情としての……?」

「まあ、そうじゃない?」

「ええええっ」


恵ちゃんが驚いて後ずさりしてつまずきそうになったのを、背中に手を回して止める。


「君の体に傷なんてついたら私も彼氏も悲しいよ」

「あ、ありがとう。彼氏なんていないけど」

「またまたあ。知ってるんだからね、田崎くんのこと」

「いや、それより、樫野くんが恋愛感情持ってることが意外だわ」

「そうかな? だって女が男に惚れるのは当たり前じゃん」

「…………そうだけど」


恵ちゃんは複雑な表情を浮かべて、やがて「応援してるわ」と肩を叩かれた。