だめだ。こんなとこで泣いて、誰か来て見られたら恥ずかし過ぎる。さっさと帰ろう。明日の予習をしなきゃいけないし。


そう思って腕で乱暴に涙を拭いて顔を上げたら、目の前に田崎くんが立っていた。


「うわっ!」


あまりにびっくりしてしまったわたしは椅子に座ったまま飛びのいてしまって、バランスを崩して椅子から落ちてしまった。


「あっ、大丈夫か?」


床に倒れたわたしの横に田崎くんがしゃがみ込んで、わたしの腕を掴んで起こしてくれる。


「だ、大丈夫だからっ」


慌てて田崎くんの手を振り払って顔を背ける。


やばい。顔に跡ついてないかな。涙とか見られてないよね。


「か、帰ったんじゃないの?」

「まあ、そうなんだけど、やっぱりちょっと心配になってさ」

「え?」


田崎くんがはは、と力無く笑う。


「それで戻ってみたらやっぱり泣いてるし」

「な、泣いてなんかっ……」


み、見られてた!


カーッと顔に熱が集中する。


くそう、よりによって好きな人に見られるなんて。


「…………あのさ、片桐。お前はそうやっていつも強がって弱いとこを見せないようにしてるから心配なんだよ。クラス委員同士だし、俺には見せていいんだぞ」


わかっている。彼は善意だけで心配してくれている。優しくて面倒見がいいから、他の人なら無視してしまいそうなわたしのことも心配してくれている。嬉しいし、こんな人他にいない。


でも、惚れてしまったから、今はその善意が苦しくて仕方ない。


「…………だめだよ」

「え?」

「わ、わたしみたいに慣れてない人は、すぐに好きになっちゃうんだから。田崎くんに優しくされたら、勘違いしちゃうから、だめだよ、無駄に優しくしちゃ」


これが9割方告白だと気づいたのは口にした直後で、恥ずかしさで再びかああっと顔が熱く火照った。


「そっか。それなら好都合」

「へっ?」

「だって、俺片桐のこと好きだもん」


にっこりと田崎くんが笑って、わたしの心まで温かくなるみたいだった。


田崎くんの笑顔は心を穏やかにしてくれる。この笑顔が大好きだ。


「俺と付き合ってください」


その笑顔を一番そばで見ていたいと思った。