「落ち込んでたのか?」


頭にタオルを被せて、畳んだワイシャツを鞄に入れる田崎くんがちらりとわたしを見た。


「え?」

「昼休み、お前無理してたもんなー」

「あ、見てたんだ……」


やっぱり、と思いつつ、見られたくなかったと思った。


笑顔を作るのが難しくなっていく。


「クラスの奴らがいる前であんなことしてたらなー。嫌でも目につくって」

「…………ごめん、なさい」

「謝ることじゃないけどさ、あんなことさせられたら嫌だと思っても片桐は言えないだろうなって思って」

「そんなことないよ。別に嫌とか思ってないし」

「……ならいいけど」


無理にでも笑顔を作ればこの場は収まる。田崎くんに無駄な心配はかけたくない。


「片桐は一人で溜め込みやすいんだから、もっと周りを頼れよな。見てるこっちが辛くなる」


田崎くんが去り際にわたしの背中をぽんと叩いた。


触れた背中が彼の体温が伝わったみたいに熱くなる。


「じゃーな」と教室を出ていく田崎くんに手を振って、彼が完全に見えなくなってからわたしは再び机に突っ伏した。


じわじわと滲む涙を腕に押し付ける。


こんなんで泣いちゃうなんて、わたし疲れてるのかな。


好きな人に心配されちゃ、わたしもまだまだだめだな。もっとしっかりしないと。


好きな人と一緒にいれる麻紀も、憧れるシチュエーションに騒ぐ女の子たちも、わたしには遠い。わたしはそれを見ているしかなくて、「女の子」になれることなんてきっとできないんだ。


それでも、好きな人には女子として見られたかったな。


付き合うとか、同じ思いでいてほしいとか、贅沢は言わない。ただ少しだけでも好きでいることを許してくれたらそれでいい。


叶わないとしても、密かに思うくらいは許してほしい。