「二人が付き合ってるって噂になってるの?」

「まあな。クラスの奴が二人で帰ってるのを見たって」

「それだけで……まあ、平坂くんが女子と歩いてるなんてレアだもんね。そう思っちゃう気持ちもわかるけど」

「健は自分から言わないし、俺からもなんか聞きづらいしさ」

「男子は恋バナとかしないの?」

「あんまり深くは聞かないかな。ほら、デリケートな話題だろ?」

「そうかな。女子なら根掘り葉掘り聞いちゃうのに」

「はは、ちょっと女子が羨ましいな」


ちょうどチャイムが鳴ったからそれぞれ席に戻る。


わたしの席は田崎くんの斜め後ろ。授業中、黒板を見ると彼の背中も見えるとっておきの席だ。


麻紀と平坂くんが付き合い始めたのは二週間前。一度告白しようも失敗した麻紀は次の日紆余曲折の末彼の隣にいれる権利を手に入れたそうだ。


正直心配だった。いつも喧嘩ばかりしてサボリ魔で、なのに成績はクラストップでむやみに喧嘩で関係のない人は巻き込まない。そんな彼を悪い人ではないとは同じクラスになってわかったけど、ひょんなことから麻紀が巻き込まれたらと思うと今すぐ告白してこいなんて言えるはずがなかった。むしろよく考えてと促したくらいだった。


でも、麻紀は「全然怖くないから大丈夫」と繰り返して結果彼と付き合った。


怖くない、なんてあそこまで言い切れる麻紀をすごいと思った。喧嘩の現場も見たっていうのに、それでも怖くないと言えるなんて。


わたしなら怖気づくだろう。それがその人に対する好意にどう影響するかはわからないけど、少なからずその人を自分とは違う人間と思い、同時にその拳が自分に降りかかってきたらと考えてしまうだろう。


わたしの親友は強い子なんだ。そう思わずにはいられなかった。


歴史の授業は板書が多い。眠気が襲ってくる暇もなくわたしはノートにペンを走らせる。


ふと斜め前を見ると、田崎くんも板書に集中していて、口元が緩んだ。


田崎くんは知らないだろう。毎回、君に話しかけられるだけで幸せだって。