「恵ー、そこの箱取ってー」

「はいはい」


わたしより10センチは優に小さいクラスの女子に頼まれて、ロッカーの上の段ボール箱を取り上げる。


中身に興味はなくてそのままその子に渡すと、「ありがとー恵がいると助かるー」なんて言ってくれたけど、わたしは苦笑を漏らすことしかできなかった。


170センチの大台に乗ってしまったわたしは男子には声をかけづらい女子たちに何かと高いところにあるものを取ることを頼まれる。別にいいんだけど。クラスの女子は160センチどころか150台しかない子ばかりだし、男子に話しかけづらい気持ちはよくわかるし、わたしなら届くし、ほんのちょっとでも誰かのためになってるならいっかーなんて楽観的に考えてもいる。


「樫野くん、どうしよう。今日のデート行けなくなっちゃったの」

「泣かないで。次は必ず来てくれると思うと今から楽しみで仕方ないよ」


聞こえた声の方へ向くと、何やらクラスの女子が群がっているその中心には他の女子より頭一つ抜けている人がいた。


「やだあ、樫野くん、今日は私と行く約束じゃない」

「違うわ、私と行くのよ」

「はは、仕方ないね。じゃあみんなで行こうか。一人たりとも退屈させないから覚悟してね」


そして、起こる歓声。というか黄色い声。