「さっきも見てたでしょ? 俺は不良だから喧嘩ばっかするし、俺の傍にいると火の粉が降りかかってくるのは必至だよ。男だってそれを恐れて俺に不用意に近づかないのに、女子ならなおさらやめた方がいい」

「…………」

「怖い思いとかしたくないっしょ。俺、他人に気使うのとかめんどくさいし」

「こ、怖くないですっ」


平坂くんの顔はやっぱりまともに見れない。でも離したくなかった。


「自分の身くらい自分で守れます。そこまでヤワじゃないです。平坂くんに守ってもらおうとも思ってません。好きだから傍にいたいと思っただけです……」

「男の力わかってる? 本気出したら、前田さんなんてひとひねりだよ」

「そ、そんなことがあっても平坂くんには迷惑かけません。平坂くんは悪い人じゃないし、怖い人でもないし、平坂くんの邪魔はしたくないし。…………私の気持ちが迷惑なら、迷惑って言っていいです……」


諦めろって言っているのはわかった。わかりましたと言って立ち去るのが正解ともわかっていた。でも私は悪い人と思えないから、食い下がってしまった。でも迷惑をかけたくもなかった。


「……悪い人じゃない?」


平坂くんが更に顔を近づける。


にい……と笑う平坂くんと目が合う。


「ばかだねー警戒心なさ過ぎ」


平坂くんの腕が伸びて壁に手をつく。


「こんなことされても俺が悪い人じゃないって言えんの?」


平坂くんの声が直に鼓膜を震わす。


「か、顔が近い、です……」

「そりゃそうだよ。近づけてるんだもん」


こんな時でも彼はマイペース。そのペースに私は嵌まっていく。


「ど、ドキドキするから……」

「知ってる。俺のこと好きなんだもんね」

「で、も、やっぱり怖くないです……」


ぴくりと平坂くんの眉がわずかに動いた気がした。


「ほんと、変わってるね、前田さんは」


平坂くんが私から離れる。


「泣き言言わないでね。俺、けっこう束縛するよ」


そんな宣戦布告の後、「帰ろうぜー」と軽いノリで言われても戸惑うしかない。