教室に戻って鞄を持つと、「あ、そういえば」と平坂くんが呟いた。


「昨日、俺に何か用あったんじゃないの?」

「へっ?」


びくりと肩を震わせて、気付けば平坂くんが目の前にいた。


どうしようどうしよう。思いきって言っちゃう? なんでもないってこの場を切り抜ける?


どちらを取っても後悔しそうな気がする。


平坂くんを目の前にするとやっぱりどうしていいかわからない。


さっきは思わず手を握って保健室に連れていったけど、今思えば何してんのだし、平坂くんにとってはいい迷惑だったかもしれないし、昨日みたいに逃げ出せる状況でもないし。


「え…………と」


平坂くんがあたしを見下ろしている。女子の中でかなり小さい方の私は首が痛くなるくらい見上げないと平坂くんとは目が合わない。


少し顔を上げると平坂くんの胸のあたりが見えて、昨日のことを思い出して顔が熱くなる。


「その…………す、好きって、言おうとしただけなので…………大したことじゃないので…………」


俯いてもごもごと呟いた。


うわああああもう、はっきり言えない私の意気地なし!


聞こえていなかったらそれでもいい。伝わらない方がきっといいんだ。


平坂くんが腰を折って私の顔を覗き込む。「ははっ、顔真っ赤じゃん」と笑っている。


「前田さんって物好きなんだね」


くすくすと笑う。