彼を無理やり保健室に連れていく。


保健室の先生がいたから彼が怪我をしていることを伝えた。


「あらあ、また喧嘩してきたの? 他の奴らはそこらへんに転がしておいたのかい」


保健室の先生はおばさんの先生で、めったに怒らない気さくな人だ。


今も平坂くんを見るなり苦笑を漏らして、消毒液を染み込ませたガーゼで唇の端をごしごしとこすっている。


「いてえっ! せんせ、染みるっ」

「我慢しな。アタシが手当てしてやってんだから」


先生が今度は擦りむいた手の甲を消毒すると、平坂くんはかなり染みたのか俯いてうめき声を漏らすだけだった。


「ほれ、終わりだ。さっさと帰んな、不良高校生」

「俺は大して怪我さしてねーよ。むこうずね蹴って立ち上がらせないようにしただけだし」

「べ、弁慶の泣きどころ…………痛い」


思わず呟くと、平坂くんがけらけらと笑った。


「本気で蹴られたらしばらく立てないからね。じゃせんせ、また来るわ」

「来なくていいよ。いつもは患者がいっぱいだからね」


私は保健室の先生にお礼を言って二人で保健室を出た。


「……平坂くんって、保健室の先生と仲いいの?」

「あ? まあ、そうかな。一年の頃はもっと喧嘩してたから世話になってるうちにサボる時も保健室に通ってたし」

「そうなんだ。扱いが手慣れてたもんね」

「雑って言えよ。患部をごしごしする保健室の先生とか聞いたことねえ」


私は声を上げて笑っていた。