今日こそ、今日こそ。


今日こそは。


教室の前の廊下に佇んで、私は何度も自分に言い聞かせた。


今日こそは、彼に言うんだ。


心臓が体を突き破って出てきそうなくらいバクバクして、足が震えて、爪が食い込んで痛いくらいに手を握り締めていた。


彼が今目の前の教室の中で一人でいることは確認済み。他の人はいない。彼一人だけ。


だから私が今入ればいい。入ってたった一言言えばそれで終わり。


早くしないと他の人が来てしまうかもしれない。だから私が早くこの扉を開けて彼の前に立たなきゃならない。


でも足がすくむ。行きたくないと体は叫んでいる。行かないほうが平和なままなのだと心に潜む悪魔が私に囁いている。


でも、代わりにやってくれる人はいない。ていうか、私が何もしないで他の人に取られるのはもっと嫌だ。


扉に手をかける。手を動かせばいい。あとは流れに身を任せれば、それから先を考える必要はない。