うぅ、寒い…。
いくら暖かくなったといっても半袖体操服は寒い。
腕を擦りながら運動場へと歩く。

「おい、桜木」

振り向くと、茶髪のチャラい男がいた。

「河野…」
「お前、この前の返事はいつまで待たすんだよ」

一週間前、私はこの男になぜか告白をされたのだ。
それも…事情もわかった上で。

■■■■

下校時刻。
いつもならチカと帰ってるはずなのに、
今日は彼女は早退してしまったから一人で帰宅していた。

「おーい」 

後ろからの声に振り向く。
軽い茶髪が追いかけてきた。
私は、足を速める。
とにかく速める!

「ええええ!?なんだそりゃ!ちょっと待てぇぇ!」

ひたすら追いかけてくるヤツを振り切ろうと必死に逃げる。

「うぉらぁああ!!俺を誰だと思ってんだぁあ!仮にも女子に足で負けるかぁあああ!」

地面が大袈裟な音をたて、とうとう追い付かれた。

「何逃げてんだテメー、まだ何も言ってねえだろうが!」

息を切らしながら、私の腕を掴み叫ぶ。

「い、やぁ~なんもしてないけど、何か逃げたくなったょー、で?」

「あ?」

「いや、私に用があったんじゃないの?」

思い出したかの様に、あぁ。と、彼は続けた。

ーー俺と付き合ってよ。


目玉が飛び出した。
…いえ、大丈夫。比喩表現だから。

「えー、と。河野、なんで?てか、私は」

「知ってる。チカが好きなんだろ?」

今度こそ目玉が飛び出した。
…皆までいいません。

「あ、えと…その」

「でも、チカはきっと受け入れない」

わかってる。

「アイツは本気でお前を親友と思ってる」

わかってる。

「お前だって」

…ツ!!

「わかってるょ!!!うるさい!黙れ!黙れ!黙ってよ!」

「陽菜…」

「わかってるよ、そんなこと…今さらなん
でアンタなんかに言われなきゃなんないの?いきなり告ってきてさ…意味わかんない、もうどっかいってよぉ」

私は…
こんな汚い自分…大嫌いだ。
チカを普通に友達として見ていたい。
こんな目は取り除きたい。
チカには私は親友としても相応しくない。
でも、だからって…

「離れたくもないんだもん…ッ」

「いいじゃん」

頭をぽん、と撫でる。

「だから。俺と付き合ってよ」

■■■■



あのときのコイツの笑顔が
頭に残っている。
なんて、キレイに笑うんだろうって思った。
でも…

「わた、しは…」

河野を利用するようなことは出来ない。
したくないよ…

「利用すればいいんだよ、俺はそうしたい」

真剣な眼差し。
ヤバい。
逸らせないよ。

「なんで…そんな」

「はぁ~るぅ~なぁ~!」

大きな声で走ってくるのは、、、

「チカ!!」
「いないから探したじゃん!河野と何話してたの??」
「あ…なんも!チカがいないねって話してただけ!ね!河野!」

河野は、ふいっと顔を背けて行ってしまった。

正直、助かった。
ありがとうチカ。

けど…。


チカの目線はずっと河野を追っている。
頬は少し赤く、ほんと、綺麗。

私は知ってる。
チカは河野が好きなんだ。




その日の授業は、全く頭に入ってこなかった。