久しぶりに弾くのには手が震えた。
手に力は入らない。
鍵盤がすごく重い。
それでも僕は精一杯に弾いた。
弾けなくても、楽しくて仕方なかった。
僕の一番好きな音。
母さんはそれを横で嬉しそうにきいてくれた。
久しぶりに母さんの笑顔を見た。
泣き虫な母さんの目には、また涙が浮かんでいる。
段々眠くなってきた。
僕は直感した。
きっとこれは僕の最後だ。
少女へ、キーボードをありがとう。
とても楽しかった。
母さんへ、いつも僕のことを思ってくれてありがとう。
親孝行できなくてごめんなさい。
僕がいなくなっても、泣いちゃダメだよ。
母さんの幸せを祈ってる。
おやすみなさい…
意識が薄れてゆく…。
やっぱり怖い、怖くてたまらない。
手が震えてくる。
気がおかしくなりそうだ。
そんな時、どこからかピアノの音色が聞こえてきた。
僕はギュッと、何があっても失わないようにキーボードを抱きしめた。


