「はぁーい」

「つーか二人乗りしてんのバレたら怒られんの俺だからねー」

「わかってるー」

「事故とか起こしたらたまんないからねー」

「わーかってるってー、慎ちゃん心配しすぎぃー」


用心深いくらいが丁度いいんだよー、と慎ちゃんが言う。低すぎず高すぎず、中間的な優しい声が私の耳に心地よく通った。



夏の風が、私の前髪を浮かせる。目を細めながら、私は空を見上げた。


青。


どこまでも青い。雲ひとつない。
快晴と呼べる天気だ。


私は雲が浮かんでる方が空って感じがして好きだけど。
雨も好きだ。あの音は私を落ち着かせる。


一人で家にいても、雨の音が聞こえてくるとこの世界のすべてを許してしまえる。とか。



私の世界なんか、とても小さいものだけど。



私とお母さんと、慎ちゃんが世界の中心。それと、中学校のクラスメイト。それだけだ。


私にとって世界は、私をとりまく大切なものが存在していれば、それだけで完結してしまえる。


ひとつも欠くことなくそこにいるだけで、私は私の世界に満足して、生きていくことができる。


顔を前に戻して、白いシャツを見た。それから風で形を変える黒髪を見た。じわりと心ににじむ愛しさを込めて、目を細める。



私の世界に、絶対必要なひと。



私が存在するために、存在していなければならないひと。


このひとがいれば、もうあとは何もいらない。