「ごめん、なんでもない」

「……泣きたいなら泣けば?」

「いやいや、泣かないよ!ここ教室だし」


みんな心配するし。色々めんどくさいし。


そう口には出さなかったけど、麗奈ちゃんは気づいたのか、確かにね、と苦笑いした。


そして塗り終わったばかりの空を見つめて、「じゃあ」と言った。



「……疲れたらちゃんと、休んでね。頭使いすぎたら空見て。深呼吸して」



彼女の声を聞いて、じわりと俺の青に真白な雲が滲む。


俺の色は濁ってるけど、それでも雲はゆっくりと流れ始めた。深呼吸すると、濁りも薄まる気がした。


まだ少しばかり歪んだ視界で、麗奈ちゃんがまっすぐに俺を見ていた。



「……俺の空は、あんまり綺麗に晴れてくれない」



小さな声でそう言うと、彼女は少し驚いた顔をして、それから「そっか」と笑った。


「あたしもそうだよ。雨ばっか降ってる。だから晴れてる空見て、元気出すんでしょ」


その言葉に、ああ、と思った。


そっか。だからこの子は、いつも空を見てるんだ。快晴の空に憧れているから。