「これで私達の国は、更に大きくなる。」

父の声を聞いたのは、それが初めてだった。

この時初めて私は、父が「悪者」だということを知った。





「はやく、はやくこの家から逃げないと…」

10歳になった私は、リュックに詰め込めるだけの荷物を詰めて、城の外に出た。

父の願望を知った私は、10歳の誕生日…私の10回目の誕生祭の間に、家出をすることを決意した。

「今なら、行ける。」

みんな食べ物に夢中だ。今なら抜け出せるだろう。

私はゆっくりと扉を開け、外に出る。
そしてそっと、扉を閉じる。

このまま一直線に走れば、田舎の村に行ける。

走り出そうとした、その時…

「待ってください!カロリアお嬢様!!」

聞き覚えのある声がして、私は振り返る。

「…っ! マリア!」

マリア。私の1番信頼している家来だ。

私は焦った。

「え、その、、これは…」

しどろもどろに答える私に、マリアは言った。

「お嬢様。目をつぶってください。」

「は、はい…。」

私は言われた通りに目をつぶる。

「この者の姿よ変われ。」

マリアはつぶやく。

「お嬢様、目を開けてください。そして、この鏡でご自分の姿をご確認ください。」

私は、ゆっくりと目を開け、マリアが差し出した鏡を見た。

「えっ…?」

王家の特徴である、白い髪と金の瞳が黒になっている。

「これは…?」

「このままの姿で行けば、すぐに見つかってしまいます。せめて髪と瞳だけではと思いまして…」


「マリア…」

「あと、これもお持ちください。」

マリアは、小さい楽器のキーホルダーのようなものを取り出した。

「このキーホルダーに魂を吹き込むと、この楽器が大きくなり、吹くことによって、さまざまな魔法が使えます。」

「このような物、どこで…?」

「あなたのお母様から、いつかあなたが独り立ちする時にと。」

私は、驚いた。

「お、お母様が…」

立ち尽くしていると、

「さあ、お嬢様!!はやく行かなければ、見つかってしまいます!さあ!!!」


私は強く目をつぶり、ゆっくりと開いた。

「ありがとうございます。マリア。」

マリアはニコリと笑った。

私は、すぐに田舎の村に向かい走り出した。

振り返ることなく。