「あれ?結局クッキーにしたんだ」

バレンタイン当日。

友だちに貰ったチョコのお返しを渡すと。
キョトンとした顔で見られた。

「うん。そう。やっぱり、私はクッキーかなーって」
「何それ。まっ、千夏のクッキー美味しいからいいけどね」


他の友だちにも配りに行くと、楽しみにしてくれていたらしく、すごく喜んでくれた。

やっぱり、クッキーにして良かったんだ……。


女子に配り終え、男子にも配りに行く。

今年は去年までと違って、クラスみんなに作った。


真也にも渡しに行った。
「ありがとう」って、笑ってくれた。


去年は、渡せもしなかった。
それに比べたら、進歩だよ。



夕方、自分の部屋で友だちのくれたチョコを食べた。

どれもみんな綺麗に、美味しく出来ていた。


私も本当は、チョコ作りたかったなぁ……。


真也、他の子にも貰ってたな。
あの中には、本命チョコもあるんだろうなぁ。
真也、モテるし。

真也の本命……彼女にも、貰うんだろうな。


クラスみんなに配るって名目で、本当は真也に渡したかっただけだった。

その目的は達成出来たはずなのに、何でこんなにもやもやするんだろう……。


……チョコは渡せなかったけど。
それでも 渡したい相手には渡せたのに。

笑って受け取ってくれたのに。

なのにどうして……。

こんなに胸が痛いんだろう……。


みんなの甘くて美味しいチョコを食べていると、涙が出た。

好きな人に渡せて、ニコニコ可愛く笑っていた友だちを思い出して。


…………違う。

私が渡せなかったのは、チョコだけじゃなくて。


私の想いだ。


クラスメートへのクッキーと、好きな人へのチョコは、全然違う。


こんなに虚しくなるなんて……。

……チョコにしなくて良かった……。

クラスメート相手へのものでも、チョコにしてたら、きっともっと苦しくなってた。


やっぱり私には、チョコよりクッキーのほうがあってる……。