バレンタイン前日。

今日こそ聞こうと思ったのに、あっという間にもう放課後。

早くしないと、真也が部活に行ってしまう。
そう思うのに、体が動かない。


目を向けると、真也は、荷物をまとめて、今まさに教室を出ようとしてるところだった。
慌てて席を立ち、追いかける。

「真也!」

「千夏。どーした?」
私を見て、不思議そうな顔をする真也。

「あっ……の……」

言葉が、続かない。

「ん?」
にっこり微笑んで、私の言葉を彼は待ってくれる。

「……えっと……」



「……制服……、腕のところ、汚れてる……」

馬鹿。
意気地なし。


「えっ!?嘘、どこ?」
「ここ……」

汚れを探す真也に代わり、その部分をはたいて汚れを取る。

少し近づいた距離にドキドキした。


「取れたよ……」
「ありがと!」
「ううん。引き止めてごめん。部活頑張って」

聞きたかった言葉を飲み込んで笑う。


今の私には、これが精一杯。



家に帰って、昨日同様キッチンの椅子に座り、チョコの材料の入った袋をボーッと眺める。


今年は……、今年こそ、頑張ろうと思ってた。

それなのに、ダメじゃん。やっぱり。


やめよう。


チョコの材料を全て片付けた。


だって私にはやっぱり、チョコよりクッキーのほうがあってる。

背伸びしたって、無駄。


頑張ったって、私は真也には見てもらえないんだ…………。