「私なんて、そんなに必要とされない人間だよ。
ただの、小さな。」

「俺にとっては必要な人だ。
美華に出会っていなきゃ、俺は癌の発見が遅れたかもしれない。美華のおかげだ。」

涙が頬を伝うのが分かった。
誰かに必要とされることが、こんなにも嬉しかった。
医者になろうと思った時の気持ちが、誰かに伝わっていたんだ。

「美華は幸せな結婚を望んでなかったけど、俺が美華を幸せにするって勝手に決めて。
親に頼んで無理矢理美華を手に入れようとした。
俺って最低だな。」
「...最低なんかじゃないよ。」

「でも、結局は自己満足だ。
...美華が病院で働いてることは、何となく気づいていたんだ。
美華からする独特の匂いが病院のものだって気づいて、美華を手に入れるなら俺の会社でも家柄的に問題はないって自信はあった。
けど、まさか榊原だったとはな。」

はぁーっと長い息が吐かれた。