だって、お見合いは恵介に私のことが知られる前に決まったのに。

このもどかしさを全てぶちまけてしまいたい。

「ここじゃなんだから、場所を変えよう。」

さっと立ち上がる恵介に鞄を持って慌てて追いかける。

慣れないものは着るべきじゃなかった。着物で躓いて転びそうになる。

「ったく、よくそんなドジで医者やってられるな。」

転びそうになった体を恵介が支えてくれていた。

「あ、ありがとう。」

少しよれた着物を直し、ゆっくりと恵介の少し後ろを歩く。

ホテルの庭に出ると、そこはとても静かで都心にいることを忘れてしまいそうになる。

足の長い恵介と着物を着ている私では歩く速度も違うはずなのに。
私と距離が開かないその優しさに、やはり恵介だと感心する。