ココアの甘さ

「ほら、美華。」

黙っているままの私を母が聞こえない声で叱る。

「あ、はい。榊原総合病院で消化器外科の後期研修中の、榊原美華です。
よろしく、お願いします。」

「本日は来てくださってありがとうございます。」

恵介と初めて目があった。

気づいてる、けれど、何も言わない。

まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったのだ。

「とりあえず座りましょう。恵介さんも疲れてるでしょう。」
「ありがとうございます。
疲れるなんてとんでもないですよ。
綺麗な方とお見合い出来て、普段の疲れも消えてしまいました。」

明るく笑う恵介に、母も好印象を抱いてしまったようだ。