ココアの甘さ

「美華、お見合いはどうだった?」
「え、あぁ、相手の方の都合で、まだ。」
「そっか。」

何でも、お見合い相手の予定が会わなくなってしまい、まだ行われていない。

「じゃあさ、俺の手術が終わったら...」

俺と、までは聞こえた。
けれど後の言葉は、突然ノックされたドアの音と、入ってきた看護師の声にかき消された。

「失礼します。榊原先生。906号室の井上さんが...」

「今いきます。
それじゃあ、お大事にしてください。」

失礼しました、と言って部屋を出た。

彼は何を言おうとしていたんだろう。
今考えてみても分からず、ただもやもやが残っただけ。

それからは急変した患者さんの治療にあたって、恵介のことは頭から離れていた。