病室に向かうと、男性の、大きな背中が見えた。その姿は、まるで彼のように見えた。

「あの……」

病室の入口から、勇気を出して声をかける。振り向いた男性は憔悴した顔のまま、私に近づいてきた。

「もしかして……弟と……LINEでやりとりをしていた人……ですか?」

「はい」

「弟は……ベッドにいますよ……」

彼のお兄さんの案内で、ベッドに眠る彼の元に歩みよる。

やっぱり、夢やなかった。別人のように痩せた頬にそっと触れると、もう温もりは感じられなかった。

『愛してる』

彼は、私にその言葉を残して、旅だってしまったようだ。

「もっと早くに、あなたに連絡してあげられたらよかったんですが。弟がそうさせなくて」

申し訳なさそうにつぶやくお兄さんに、笑顔を向けた。

「大丈夫です。彼からはたくさん、大切なものをもらったから」

悲観してはいけない。
お互いに幸せやったんやから。