それでも私は、笑っていた。笑っていられた。目の前に、あなたがいるから。

そのうち、彼も笑顔になった。なにも話さない彼と、話したくても話せない私。

モノクロームの世界で、赤い砂がサラサラとときを刻む。現実世界に住む私と、訳あって現実世界から旅立とうとする彼。

彼のことが好きならば、その背中を笑顔で見送ってあげなければならない。

「オレは、あなたに出逢えて、好きになって、幸せやった」

うん、と大きくうなずく。

「だから、あなたには幸せになってほしい」

うん、と笑顔でうなずく。

「愛してる」

『私も』

唇を動かし、言葉を綴る。

『愛してる』

彼が穏やかな笑顔を浮かべたとき、砂時計の赤い砂がすべて落ちた。