夢で彼に逢いたいがために、長い一日を精いっぱいがんばった。

夜が来ると、テレビにもスマホにも見向きもしないで、早めに食事と風呂を済ませると、ベッドに潜り込んだ。

やっぱり、すぐには眠れない。でも、ある一定の時刻がくると、猛烈な睡魔に襲われた。まどろみの中、時計に目をやると、それは二十三時だと気がついた。


「こんばんは」


彼の声に、起き上がる。彼の微笑みに自然と微笑む。

「よかった。今日も笑顔が見られて」

私も。うなずいて見せると、寂しげな笑みを返された。彼の手のひらで、容赦なく落ちる赤い砂。

「でも……そろそろオレは、旅に出やんといかんねん……」

……旅? 彼が旅に出たら、もう二度と逢えない気がする。行かんといて……。呼び止めようとするけれど、声が出ない。

「いつまでも、ここにはいてられへん」

なんで? なんで旅に出やんといかんの? 私と逢えなくなっても、平気?

私は……あなたがいないと……。

「もし、オレが『一緒に来て』って言ったら……ついて来てくれる?」

その返事をする前に、ときを刻む赤い砂が落ちた。