桃色アルバム

「呆けてないでさっさと踊りな!!またクモが取り付くよ」
「ひいぃ」

半ば泣き声で、必死にくるくるとまわる。
それは踊りと言うより、ただ暴れているだけだ。


「はぁ、はぁ・・・・・」

汗だくになりながら、伊藤は膝をついた。
音楽が、やっと終わったのだ。

「おめでとう。あんたはクモに勝ったんだよ」

老婆のやさしい声がする。
そういえば、あの気持ち悪い感触もない。

「ありがとうございますっ・・」
感動で声が高ぶりながらも、何度も頭を床につけた。

「いいってことよ。では、わたしはいくね。あんたも帰りな」
「はい」



その後、伊藤の頭はずっとぼんやりしていた。
(あんなすばらしい方が、世の中にはいるもんだ)

思っていると、いきなりつながれた手が離された。

「では、さようなら」

そう言う男の子の声がしたで聞こえる。
アイマスクをあげると、その子の姿はどこにもなかった。
不思議に思ったが、今はそんなことを考えている余裕もなかった。

(明日、この不思議な体験をみんなに話そう。うらやましがるかな)
もちろん、クモのことは伏せておこう。
そう自分でうなずくと、人も少なくなった道を軽い足のりで歩いていった。