「ついたよ。まっすぐ歩いていって」
伊藤はそろそろと壁をつたい、歩いていく。
「ちがう、もうちょっと左。そう、そこ。そこが部屋の真ん中さ。座って」
伊藤が正座すると、どこからかヒタ、ヒタという足音がきこえてきた。
「来たね」
「あなたは・・・・」
さっきの老婆の声だった。
しゃがれた声で続ける。
「わたしは神に仕える四天王のひとりさ。あんまりにもあんたがかわいそうなんで、助けてやることにしたよ」
「ありがとうございます」
伊藤は声のするほうへ、床に頭を擦り付けた。
「では、やってもらおうかね」
「何をですか?」
床から頭をはなすと、首からなにかをかけられた。
「踊りな」
「は?」
「踊りなって言ってんだよ。聞こえないのかい?」
「なぜ、踊るのですか?」
「それがはらいの方法さ。さ、立ちな。音楽をかけるよ」
伊藤がしぶしぶ腰を上げると、激しい音楽がかかってきた。
と同時に、顔や手足、体中に何かがピタピタ張り付いてきた。
「これは、何ですか?」
「クモさ。取り付いていたクモが、姿を見せたんだよ」
クモと聞いた瞬間、伊藤は飛び上がった。

