桃色アルバム

伊藤は、ひとりの少年につれられて、人ごみを歩いていた。

時間をさかのぼると、１時間前―




「伊藤先生、お電話です」

受話器を受け取ると、保留をＯＦＦにする。

「はい、伊藤ですが」
「あなたが伊藤先生かい？」
「そうですが、どちらさまでしょうか」

電話口からは老婆の声が聞こえる。

「わたしは、通りすがりのババアさ。ところであんた、今日一日で何かおかしなことはなかったかい？」

その一言で、伊藤は息をのんだ。

クモの大群は、くつばこだけではなかった。
カバンにも、体育シューズにも入っていて、何回失神しそうになったことか。
今思い出しても、鳥肌がたってくる。

「ちょっと、聞いてるのかい？」
「あ、はい」
「しょうがない子だね。わたしが当ててあげようか。クモだろう。クモの大群があんたを襲った。そうだろう？」
「どうして、知っているんですか！？」

驚いて大きな声を出してしまい、ハッと振り返るとほかの教師たちがこちらを冷ややかな目で見ていた。
伊藤はコホンと咳払いし、電話口にひそひそと話しかけた。

「どうして、あなたがそれを？」
「今朝、道であんたを見たときにね。悪霊がついていたんだよ。それもとてつもなく大きなクモ」
「わたしに、ですか！？」

伊藤はもうすこしで気絶してしまうところだった。