桃色アルバム

「あぶなかったな」

斜め前の川嶋がケイタにぼそりとつぶやいた。

「ほんと、さとこぶたれるところだっ・・」
「ちがうちがう」

ケイタの言葉を、笑いながら川嶋が取り消した。

「ほんとに危なかったのはあの女子のほうだよ」
「・・・・・はぃ?」
マヌケな声をだすケイタに、また川嶋は笑ってしまった。

「だから。さとこならあんな子のビンタはかるがるとめられるってこと」

・・・そうだ。
(さとこは警察官の娘だった・・・・・)
そういえば、あの時余裕そうに笑ってたっけ・・・・・・
・・・・・・・・すっかり忘れてた。

「・・・・・・サンキューな」
ぼそりと言うと、川嶋はきょとんとした顔でケイタを見た。
「だから、助けてくれて」
「・・・ばか」
ケイタが頭をさげると、怒ったようにぽこんと下敷きで頭をぶった。
「礼なんかいうなよ。あいつらに言っても、きっと怒るぜ」
「でも・・・・・」
「あんなの当たり前のことだよ。仲間だろ」

そう言って、もうなにも聞くまいというようにプイと机に座りなおしてしまった。
こちらがいくら見ても、振り返ろうとはしない。
仕方なしにケイタも、前をむいた。

川嶋の ”仲間だろ”という言葉が頭に焼き付いて離れなかった。
じーんと胸が熱くなる。
今までにそんなことを言われたことはなかったから。
ずっと、孤独だったから。
そんな一言が胸に響いた。
うれしくなった。