桃色アルバム

ジリリリリリリリリ・・

耳に響く聞きなれたアラーム音を腕を伸ばしてとぎる。
カーテンの隙間からは朝日の光がながれてくる。

その寝起きにはまぶしすぎる光とうるさいアラーム音で不機嫌な一日が始まる。
これは、いつもなら。

今日は逆にこの耳障りなアラームが鳴り響くのを待っていた。
いや、鳴る前から起きていた。

いつもならもう5分、と再度寝るところを、ベッドから飛び起きる。

こんなにも学校に行くことを楽しみにするのは、はじめてだ。

なんてったって今日は、例のいたずらを実行する日。
じっと寝ていてはいられない。
機能と同様に頬の肉が緩んできた。

ケイタはさっそく制服に着替え、顔を洗いに下へ降りる。

ついこの間まで肌をさすような冷たさだった水が、今ではちょうどよく、ほんのりと春の香りがただよう。


「ケイタ?起きてるの」
母親が洗面所の入り口からかすんだ目をこすりこすり、起きてきた。

鏡に映った自分のニヤけ顔に気づき、あわてて顔を伏せた。

「珍しいじゃない。いったいどういう風の吹き回し?」

母親がさもうれしそうに聞いてくる。

「なんでもない」
冷たくそういいはなしてから、タオルで顔を隠しそそくさと横を通り過ぎた。

がんばって顔を引き締めても、一度緩んだ筋肉はなかなか引き締まらない。

自分でトーストを焼き、バターとはちみつをたっぷり塗る。
なぜか今日は食欲がでる。

「今日は食欲旺盛じゃない。母さんうれしいわ」
コト、と牛乳が入ったコップを置きながら母親がいった。
「いちごもあるわよ。食べる?」
にこにこという母に、ケイタは素直にうん、とうなずいた。


「いってくる」
ぼそりと言って足早に家をでる。

今日はいつもより30分家を出るのがはやい。
そのせいか、太陽の光が新鮮にかんじる。

ケイタはいつもと違う気分で通学路をあるく。

(こんなに空気ってうまかったっけ・・・)

ふとそう思い、すがすがしい朝の空気を何度も深く吸いながら少なくなってきた桜の花道を歩いていった。